一般論と個別性について

 何らかの「上手くいかないこと」が起こっているとき、それが起こった事情を考えるのはとても大切なことです。しかし昨今、「上手くいかないのは発達障害だから」という見なし方が流行ったせいなのか、様々な場面で「その人の個別の事情」が無視されがちになっているようにも感じます。

 発達障害の特徴は、確かに、何らかの「上手くいかなさ」の原因のひとつになりうるものです。しかし、あくまで「ひとつ」にすぎません。「上手くいかないこと」はたいてい、いろいろな要素が絡み合って発生します。

 例えば、「子どもが宿題を全然やらなくなった」という事態が、何かひとつの要素だけによって引き起こされることはめったにありません。

 その事態に「発達障害の特徴」という要素が絡んでいる場合も確かにありえるでしょう。例えば「衝動性が強いから計画的に宿題をやるのが苦手」など。でも、それなら衝動性の強い子は全員必ず宿題が出せないのかというと、そうではないですよね。

 ということは、その子が宿題をやらなくなった背景には、「その子ならでは」の、発達障害の話だけでは説明ができない様々な事情がある、と考えるのが自然だと思います(やる気を失うような出来事があったとか、前から溜め込んでいた何らかのストレスが今一気に爆発しているとか)。

 しかしそのような「その子の個別の事情」は、「個別」なのですから、一般論では説明できない複雑なものです。反面、「衝動性が強いと計画を立てるのが苦手」といったような発達障害についての解説は、基本的には一般論ですから、単純でわかりやすい場合が多いです。

 このため人によっては、「個別の事情について考えるのは大変だ、疲れる」という理由で、「上手くいかないのは発達障害だからだ」という見なし方ばかりしてしまう場合もあるかもしれません。

 そして、大変だと感じてしまうのも仕方のないことなのかもしれません。個別の事情について細かく考えるには、かなり気力が必要になりますから。細かく考えずに「発達障害だから」で済ませた方が、確かに楽ではあると思います。

 ただ、楽だからという理由で個別の事情が無視されると、そのせいで様々な問題がじわじわと積み重なり、結果的に全然楽ではない状況になる場合が多いのではないかと考えられます。

 この話は次回に続きます。次回以降、上記の「様々な問題」について、もう少しくわしく説明します。

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